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都地龍哉さん・上出優之利 写真個展「クルマの達人」

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【上出優之利 写真個展「クルマの達人」】
東京・銀座で絶賛開催中ですが、《明日(7月19日・土)の午後3時から》、写真家の上出優之利さんが皆さんの前で、展示中の作品を一点ずつ振り返りながら、氏にとっての撮ることについて説いてくれる約1時間のトークショーを開催します。

この席に「クルマの達人」で紹介したクルマの達人も駆けつけてくださり、上出さんといっしょにご自身の仕事についてお話をしてくださいます。詳細はブログの後半にありますので、ぜひ皆さんもいらしてください。

わたしの方でご来場予定を把握している方々、どのような「クルマの達人」なのか、ご来場いただける皆さんにお知らせしておきたく、誌面に掲載した原稿をここで紹介します。


四人目は…… 

都地龍哉さん
とぢ商店

一等賞以外はみんなビリ。
自動車の登録はそういう仕事。



到着した頃には、冬の空はすっかり暗くなっていた。シャッターの下りた工場の灯りが漏れる窓のあるドアを開けて中へ入ると、エンジンルームに上半身を突っ込んだ都地さんがいた。わたしの顔をチラリと見て、もう終わりですから上で話しましょう、と工具をまとめ始めたのを止めて、今の様子を写真に撮りたいのでどうかそのままでとお願いした。明るい時間帯には車検場に出掛けているか、机で調べ物をしていることが多い都地さん。真っ黒に手を汚してクルマにかじりついている光景は、もう長い付き合いになるわたしにとっても珍しかった。

一等賞以外はみんなビリ、というのは、都地さんの口癖である。都地さんは若い頃、バイクのレースにハマっていた。クルマにしてもオートバイにしても、結果に対する残酷なまでの非情さは、コースの上で真っ赤になってアドレナリンを噴出させた経験のある誰もが嫌というほど思い知らされる現実である。

「自分のことを他人が評価する。正確には他人ではなくて、状況なのかな。つまり、現実はこうですよ、ということがはっきりしちゃうのがレースなんですよね。そこには、頑張ったねとか、素晴らしい個性ですねとか、そういう表現はなにもないんです。決められたルールの中で競り合って、誰がいちばん速いか決めましょう、という場の一人に加わった瞬間、ルールに従って結果が出るだけ。2等賞の表彰台に立てても、横には1等賞の人がいる。3等賞を見てやった! と思うより、1等賞を見て負けたと感じる性分なんです。だから1等賞以外はみんなビリ、自分にとってはね」

そんな都地さんの仕事は、ざっくり言うと車検屋さんである。ただし、都地さんを頼って日本中から持ち込まれるクルマの多くは、いわゆる町中を普通に走っているクルマたちではない。レース専用車として製作されたクルマ、分厚い装甲を纏った特殊用途専用車、遙か昔にメーカーが消滅してしまった見たことも聞いたこともないようなクラシックカー……。そういうクルマにナンバープレートを付けて、つまり日本の法規に適合した登録車両として公道を走れるようにしてほしいという望みを叶える車検屋さんなのである。

「難しい仕事なんですが、少し見方を変えると難しくはないとも言えます。つまり、登録を適えるためのルールは法律ですから、明文化されたものとして決まっているわけで、自分がやることは、そのルールの中に収まるクルマですよということの証明作業なんです。もちろんその作業の過程には、灯火類や制動装置の仕様や性能、排気の状態を見直すような作業がつきものになりますが、何をしていいのか分からないということはひとつもないわけです。すべてルールで決まっていることですから、それを目標に仕上げればいいわけで。そういう意味では、レースのようにライバルが毎戦ごとにどんどん速くなって、いつまで経っても追いつけないなんていう難しさはありません」

けれども、任された車両によっては、そのルールが示すしきい値までの距離が遙か彼方に感じられることもあるはずだ。例えば、F1マシンで青山通りを走りたいというような夢。

「不可能じゃないですよ。製造者がはっきりしている分だけ楽かもしれません」

はははと笑った後、ポツリと。

「だから、1等賞以外はみんなビリなんです。あとちょっとでナンバー付けられたのにね、という評価は、自分の仕事にはないんです」


その日は、かなり遅くまで話し込んだ。辛くなることはないか、というような訊ね方をしたと思う。やることは同じだと笑うその仕事は、前例のない、つまり誰かに尋ねて答えを見つけられる可能性がとても低く、そういう事ごとにひとり黙々と取り組む日々に孤独を感じることはないかということが訊きたかった。

「レースと同じだと思っています。結果がすべてと話しましたが、それは言い換えれば誰かの評価を勝ち取るということと同意だと思うんです。この仕事を評価してくれる人がいるとしたら、もちろん自分を信じて依頼してくれたお客さんですよね。国もそうです。法律に適合していることが認められて初めて車検証は発行されます。そして、そうですね……」

そして?

「家族です。妻や娘たちが、お父さん凄いねって言ってくれること。評価という言葉が相応しいかどうかはわかりませんが、毎日、何十年もこの工場で世界中からやって来た見たこともないようなクルマやバイクを前に奮闘している姿を、いちばん間近に見ているわけですからね。自分にとって家族以上の評価者はいないんじゃないかって、そう思います。明日も、明後日も、困ったなぁどうしよう……というクルマが待ってる工場へ戻って、何とかしよう何とかなるさと仕事に打ち込める最大のモチベーションは、実はすごく身近にあるもんだと思います。自分の気持ちもそうだということも含めてね」

帰り間際、工場前にあった巨大な装甲車に乗って、都地さんと一緒に記念写真を撮った。ニカッといつもの笑顔で写真に収まってくれた都地さんがひと言。

“この装甲車は、すぐにナンバー付きますよ”

嘘みたいなことをサラッと言った都地さんのことがなんだかおかしくて、写真の中のわたしも思いっきりの笑顔で隣に収まっていた。


※2021年1月取材

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【上出優之利 写真個展「クルマの達人」】
  • ★7月15日(火)~26日(土) キヤノンギャラリー銀座
入場は無料ですが、休館日があるので以下のウェブサイトで詳細をご確認の上、お出かけください。
19日(土)15時からのトークショーでは、わたしもマイクを持たせていただきます。

【キヤノン公式ホームページ 上出優之利写真展「クルマの達人」】




※ぜひ、Facebookでわたしをフォローしてください。ブログよりも更新が楽なので、スピーカーシステムの話、クルマの話、はるかにたくさんの発信をしています。簡単な動画ですが、スピーカーシステムの音を車内で録音したファイルも、Facebook内にはたくさんあります。鑑賞だけならアカウントは不要です。下のFacebookのURLから飛べます。

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崎山和雄さん・上出優之利 写真個展「クルマの達人」

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【上出優之利 写真個展「クルマの達人」】
東京・銀座で絶賛開催中ですが、《明日(7月19日・土)の午後3時から》、写真家の上出優之利さんが皆さんの前で、展示中の作品を一点ずつ振り返りながら、氏にとっての撮ることについて説いてくれる約1時間のトークショーを開催します。

この席に「クルマの達人」で紹介したクルマの達人も駆けつけてくださり、上出さんといっしょにご自身の仕事についてお話をしてくださいます。詳細はブログの後半にありますので、ぜひ皆さんもいらしてください。

わたしの方でご来場予定を把握している方々、どのような「クルマの達人」なのか、ご来場いただける皆さんにお知らせしておきたく、誌面に掲載した原稿をここで紹介します。


三人目は…… 

崎山和雄さん
崎山自動車サーヴィス

俺は永遠の自動車少年。
これまでも、これからも。

人間五十年 下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり。』

路地を挟んだ向かいには、小さな八百屋さん、錠前屋さん、ガラス屋さんなんかが商売をしている。籠の上に載っかった真っ赤なトマトを指さしながら、腰の曲がったおばあちゃんと夕飯の材料を求めにきたお客とのやりとりが微笑ましい。隣の錠前屋では軽トラから小さな段ボール箱を忙しく店の中へ、ガラス屋の老主人は店の奥の作業台でサッシに刃物を当ててなにやら作業中だ。
ちょっと騒々しい変わったクルマがやってくると、近所の窓から半ばいぶかしげにも見える興味深そうな顔が覗く。崎山自動車サーヴィスは、古くからの人が住む東京の街角の小さな自動車修理工場だ。

20年前、初めて崎山さんさんのことを紹介した「クルマの達人」を、わたしはこのように書き始めた。崎山自動車サーヴィスは、名うてのメカニックが工具を振るう整備工場として当時つとに名高く、愛車の仕上がり具合を覗きに立ち寄る有名人の姿も頻繁にあった。けれども、そのようなことを鼻に掛ける気取りはまるでなく、いわゆる町の整備工場そのものだった。

クルマの腹下から寝板を滑らせて現れた崎山さんに散歩する近所の人が「いい天気ね」と声を掛けるのと同じ調子で、整備が終わったアストンマーチンを引き取りに来たテレビでよく顔を見かけるような人に「クラッチをもっとうまく
やらなきゃ、また壊れちゃいますからね。ミートはこういう感じで……」と手振りを添えてニコニコと話す。その名調子をうなずきながら聞くクルマの持ち主の表情の、なんと楽しそうなことか。

いつも話してくれる「町の修理屋の代表みたいになりたかったの。それを東京でやりたかったわけ」という台詞ままの崎山自動車サーヴィス、今年いっぱいで幕を下ろす。ちょうど60年間東京で、すなわち戦後輸入車の移ろいのすべてを整備の現場で見続け、支えてきた「クルマの達人」が間もなく仕事の為の工具を置く。

「品川の大井町っていうところで生まれたんだけど、伊達のお屋敷が進駐軍に接収されてたせいで外車だらけの町だった。格好いいなって憧れたよ。で、中学の時は自動車雑誌を古本屋で手に入れて隅から隅まで読むようになって。16歳から赤坂にあったジャックス・ガラージっていう整備工場で働き始めて、気がついたら77歳になってた。

大人ってのはさ、よく見てると思う。職業訓練校に入れって勧めた叔父さんは、おまえはクルマが好きでそれ以外はできないっていう理由で話をしてくれたし、訓練校の先生に呼び出されたかと思ったら、おまえは将来好きなこと以外やるな、そういうタイプの人間だって諭された。

それに輪を掛けるような言葉でいろいろ教えてくれたのは親父(ジャック・Y・タナカ=ジャックス・ガラージの社長メカニック。崎山さんと血縁関係はない)だと思う。まだ働き始めたばかりの俺にプラグ交換をしろって。いや、そんなのできませんよって答えたら、好きなんだからできないわけない。やってみろ、って。1ドル1200円くらいで輸入部品の値段を計算していた時代だからね、プラグでも給料を軽く超える高級品で、しかも簡単に折れちゃうほどやわい。無茶なことを言う人だって感じたけど、俺のことを本当によく見抜いてくれたんだなって思う。21歳の時、おまえは将来自分で工場をやるに違いないので、自分が整備できるようになるだけじゃなく、人の使い方を覚えろ、とかね。

若かった頃に親父が掛けてくれたそういう言葉は自分の力になっている。何かあったときに慰めてくれる人より、力になる言葉を掛けてくれる人が好きなの。俺が24歳の時に若くして亡くなっちゃったけどね」

一間間口の商店が並んでいた場所にはマンションが建ち、通りを行き来した昔からの顔もすっかり減った。今や崎山自動車だけがこの界隈に流れる昔ながらの空気を残している場所になってしまった。

「体力のこともあるけど、もういいかなって。一つのことに60年だからね。もう十分でしょ。

若い頃に“東京には整備工場が掃いて捨てるほどある。でもおまえに金を払いたいから来てるんだ。なんたって、おまえみたいなのは放っておけない。”って、お客さんによく言われたよ。男芸者だからさ、俺がやるメカニックって仕事は。工場はステージで、そこで舞うわけだよ。こりゃあ凄いって、喜んでもらってなんぼだから。あっという間だったね、60年。

夢幻のごとく……。織田信長が好きだった『敦盛』の一節、いいでしょ。あまりに一瞬のことで、自動車少年のままだから。永遠の自動車少年のままだから」

※2020年10月取材

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【上出優之利 写真個展「クルマの達人」】
  • ★7月15日(火)~26日(土) キヤノンギャラリー銀座
入場は無料ですが、休館日があるので以下のウェブサイトで詳細をご確認の上、お出かけください。
19日(土)15時からのトークショーでは、わたしもマイクを持たせていただきます。

【キヤノン公式ホームページ 上出優之利写真展「クルマの達人」】




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三村英之さん・上出優之利 写真個展「クルマの達人」

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【上出優之利 写真個展「クルマの達人」】
東京・銀座で絶賛開催中ですが、《明日(7月19日・土)の午後3時から》、写真家の上出優之利さんが皆さんの前で、展示中の作品を一点ずつ振り返りながら、氏にとっての撮ることについて説いてくれる約1時間のトークショーを開催します。

この席に「クルマの達人」で紹介したクルマの達人も駆けつけてくださり、上出さんといっしょにご自身の仕事についてお話をしてくださいます。詳細はブログの後半にありますので、ぜひ皆さんもいらしてください。

わたしの方でご来場予定を把握している方々、どのような「クルマの達人」なのか、ご来場いただける皆さんにお知らせしておきたく、誌面に掲載した原稿をここで紹介します。


ふたり目は……

三村英之さん
GRAND ARTS

一本の筆と日本人としての感性が
世界を舞台に描き始める日を夢見て


昨年の11月、SEMA SHOWの会場を歩いてきた。

SEMA SHOWというのは、自動車の主にアフターマーケットに関するあらゆるビジネスを対象とした事業者向けの見本市で、アメリカはラスベガスの広大な会場で毎年開催されている。

世界のトレンドを占うカスタムカーに群がる人々の熱気はもちろんとんでもなく熱いのだけど、日本で開催される同じようなイベントではあまり感じられないある雰囲気が、やはり今回も熱かった。

その熱い雰囲気を全身に浴びてるうちに、そうだ、日本に帰ったら三村さんに会いに行こうと、思った。

1ヶ月後、奥の方から工具が動く音が聞こえてくる工房の入り口に立っていた。中に入ってゆくことはせずに外で待っていたら、しばらくして三村さんが表へ出てきた。たった2年しか経っていないのに、前に会ったときよりずっと創作家の風情が強くなったように感じた。なぜだろう。

「自分のやるべきことが、とても整理されてきたような気がします。自分にしかできないことがあって、でもそれを前面に押し出すだけでは理解してもらえないということもわかっていて、じゃあどうすればいいのかという答えが、すごく見えてきたような気がするんです」

少し興奮気味にそう切り出した言葉の続き、実は創ってゆきたい作品の内容については、2年前に話してくれた夢やアイデアと何も変わっていなかった。けれども、やらないことについては、思いっきり明確になっていた。

「仕事ですから、それでお金を稼いで生きてゆかなければならないじゃないですか。そうすると、どうしても得意なんだからやってよと頼まれた仕事を断れない自分がいたんです。もちろん今でも、完全に切り分けられたわけではないです。そこまで、自分が理想だと考えるバランスには到達できていないです。けれども、もっともっと自分らしさが濃い自分になるために、いろいろと整理がついてきたようには感じるんです」

黒く塗られた壁とファンスに囲まれた秘密基地のような空間には、あらゆる技法で描かれた絵や立体物の作品が並んでいる。例えばスプレーガンで描かれた画も、素晴らしい出来栄えでそこに並んでいる。

「あぁ、エアブラシアートの画ですね。もちろん、仕事としてのクオリティは十分以上にクリアしていると思います。でもあれって、エアブラシアートを勉強した人なら誰でも描けるんですよ、技法的には。だから、用意された写真を元にそれをブラシアートで描く、という作業は、自分じゃなくてもできるわけです。そういうものを自分の作品の中から排除してゆこうという流れが、かなり進んだ気がします」

近しい間柄の中で、そのうち活躍の舞台を海外に移してしまうだろうな、と直感する人が2人いる。三村さんは、そのうちの一人だ。

SEMA SHOWで今年も感じた雰囲気の中に、三村さんを置いてみたいと話した。ある作品に感銘を受けたとき、こういう創造ができる人物は誰だろう、そういう人物が籍を置いて力を発揮してもらえるこの企業はラッキーだ、という風に発想する雰囲気がSEMA SHOWの会場には満ちている。だから、組織よりも、個人へのリスペクトが当然のように先に立つアメリカのあの会場で、思い存分 "我こそは!”と叫びながら、作品を紹介する三村さんが見てみたいのだと話してみた。

「前にも話したと思うんですけど、僕の仕事はあくまで代行屋です。それは、夢を叶えるということをピンストライプや立体の造形で実現することはできるんですが、そもそもそれがどういう夢なのかは、お客さんの心のなかにあるものだからです。言葉にしにくいその夢を聞き出して、そのイメージに自分なりの工夫を加えて、そして出来上がりを見た瞬間に満面の笑顔がこぼれるるために必要なことすべてが、僕の仕事だというスタンスは変わっていません。

日本でも、僕のそういうスタイルを理解してくれて、楽しんでくれたり応援してくれたりする人には、とても恵まれていると感じています。でも、もしそういう感激の輪が海を超えることができれば最高ですね! 実は、以前からすごく興味があるんです、SEMA SHOW。来年、ぜひ一緒に行きましょう」

そうですね、三村さん。来年は、とりあえず様子を見に行きましょう。そして再来年はウォッチャーではなく、パフォーマーとしてラスベガスの会場に立ってください。

じゃあ、行きますか! と言ったら、まず英語を勉強しなくちゃですね、と笑っていた。大丈夫、自らの魂の表現を両手で掲げたときのその熱い眼差しがあれば、きっと世界中どこでも日本語で通用します。

※2021年12月取材

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【上出優之利 写真個展「クルマの達人」】
  • ★7月15日(火)~26日(土) キヤノンギャラリー銀座
入場は無料ですが、休館日があるので以下のウェブサイトで詳細をご確認の上、お出かけください。
19日(土)15時からのトークショーでは、わたしもマイクを持たせていただきます。

【キヤノン公式ホームページ 上出優之利写真展「クルマの達人」】




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後藤新太郎さん・上出優之利 写真個展「クルマの達人」

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【上出優之利 写真個展「クルマの達人」】
東京・銀座で絶賛開催中ですが、《明日(7月19日・土)の午後3時から》、写真家の上出優之利さんが皆さんの前で、展示中の作品を一点ずつ振り返りながら、氏にとっての撮ることについて説いてくれる約1時間のトークショーを開催します。

この席に「クルマの達人」で紹介したクルマの達人も駆けつけてくださり、上出さんといっしょにご自身の仕事についてお話をしてくださいます。詳細はブログの後半にありますので、ぜひ皆さんもいらしてください。

わたしの方でご来場予定を把握している方々、どのような「クルマの達人」なのか、ご来場いただける皆さんにお知らせしておきたく、誌面に掲載した原稿をここで紹介します。


まずは…… 

後藤新太郎さん
GARAGE GOTO

本当に生きているんじゃないかと
アルファロメオとは、そういうクルマ


ちょうどピストンを加工しているところだった。手製の治具に旧いアルファロメオのピストンを慎重に取り付け、工作機械の刃物を下ろす位置を何度も確かめてから機械のスイッチを押すと、デジタルの表示パネルに赤いゼロが並んだ。そこまで10分ほど。その後、ようやく回した刃物がキリキリという音を立てながらピストンのてっぺんを少しずつ削り始めた。削り落としの深度を示す赤い数字と、刃先とピストンが触れている一点を交互に見比べながらまた10分ほど。機械を止めてピストンを取り出す。手のひらに乗せて光にかざし納得した表情を見せると、それを大切にトレイの上に戻し、次のピストンを手に機械のところへ戻る。

真剣なまなざしと柔和さが混ざった、得も言われぬ終始の表情を見たとき、嗚呼後藤さんの工場を訪ねているのだなあと、こちらまで気持ちが和んだ。

アルファロメオの整備でつとに有名な後藤さんは、町乗りからサーキット走行まで、愛好家の望む施しを彼らの愛車に注ぎ込むメカニックであることはもちろん、工作機械の前に立ち、彼一流の手仕事を施すチューナーでもある。そして、本当に好きなんだなぁと感じるこの表情こそが、多くのファンの心を掴む魅力の真骨頂なのだと確信させる。

「最初は、どうしてもアルファロメオでなければならないというわけではなかったんですよ。クルマに興味を持ち始めた頃は、解体寸前の国産車を安く買ってきて、自分で直して乗ってました。何台もね。きっと直すのが好きだったんだと思います。機械いじりという意味でね。そんな中で、たまたまアルファロメオを所有することになったんです。まだサラリーマンとして働いていた三十代の頃の話です」

初めて手に入れたアルファロメオも例に漏れず、そのまま安心して乗り出せるような状態ではなかった。後藤さんは、それまでの愛車にしたように修理をして整備をして、いくつかのポイントを自分好みに改良して運転を楽しんだ。そのとき、ある感触が後藤さんの感性を射貫いた。

「特に速いクルマではありませんでした。性能を追求したスポーツカーという趣では、ほかにもっと驚くようなクルマがあるだろうというクルマでした。

けれども、なんて心に響くクルマなんだろうと強く感じたんです。なんて楽しいクルマだろうという感覚が、運転操作のすべてから返ってきて、五感が震えるというか、ワクワクする気持ちが止まらない。それなのに、まったく神経質なところがなく、もっと言うとやさしい気配に包まれたままクルマを走らせることができる。少しずつ運転に慣れてくると、もっと上があるよと穏やかに次のステップを教えてくれる。そこへ到達すると、ほら次はここだよとまた教えてくれる。

目からうろこが落ちるような思いでした。こいつは実は生きていて、自分のことを見ているんじゃないかと本気で感じることがあるほど、人間っぽいクルマにやられちゃったんです。アルファロメオに完全にやられちゃったんですよ、僕」

38歳のとき、勤めていた会社を辞め、ガレージゴトウを興した。不要になったプレハブ小屋の材料一式を譲り受け、すでに後藤さんの整備を受けていたクルマ仲間と一緒に建て、四六時中そこでクルマと触れ合う日々が始まった。さっきまでピストンの加工をしていた工作機械がぎっしり並んだ小さな建物が、33年前、後藤さんが第2の人生をスタートさせた空間である。
「あっという間でしたね。もう72歳になりました」

昔よりもずいぶん細身になったことは、少しサイズが大きく見える着慣れたツナギ姿が気づかせてくれた。

「メカニックというのは、体力が必要な仕事ですから。いつまで現場に立てるでしょうかね。部品の加工作業は、まだまだ大丈夫だと思うんですけど」

後藤さんのファンにとっては少しギョッとするようなことを口にした後、息子が少しずつ整備の腕を上げているんだという話をうれしそうにしてくれた。

「いや、大丈夫。まだ引退しないから大丈夫。試してみたいことがまだまだあるんです。もうずいぶんいじくったはずなのに、こういうチューニングをしたらどんな結果が出るんだろうっていう興味が尽きないんです。だから、まだ大丈夫ですよ」

そう言って大きな手で頭を掻きながら魅せる人懐こい笑顔に今日も出逢えた。

工場を後にした帰り道、後藤さんをクルマに例えるなら……などということをふと考え、思わず頬が緩んだ。繊細で技術的な造詣の深さがあって、けれども神経質過ぎることがなく、そして近づいても近づいても次のステージを用意できる奥深さを持っているクルマ。さっき、それはアルファロメオというクルマです、と後藤さん本人が言ったばかりじゃないか!
 

※2021年6月取材


撮影時の様子を記録した短い動画をFacebookにアップしておきます。
【コチラ】からぜひご覧ください。

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【上出優之利 写真個展「クルマの達人」】
  • ★7月15日(火)~26日(土) キヤノンギャラリー銀座
入場は無料ですが、休館日があるので以下のウェブサイトで詳細をご確認の上、お出かけください。
19日(土)15時からのトークショーでは、わたしもマイクを持たせていただきます。

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